PFI事業でのサービス購入の考え方見直しの提言 日刊建設工業新聞/所論緒論 2021年6月1日16面

 
 

所論諸論/熊谷弘志/PFI事業でのサービス購入の考え方見直しの提言

熊谷弘志氏

熊谷弘志氏

 

 会計検査院が5月に報告書「国が実施するPFI事業について」を発表した。VFM算定に問題点があり、内閣府に指針改定の検討を求めたことや、民間委託で逆にコスト高になっていること等が報道で取り上げられた。ここでは、サービス購入型として分析されている国のPFI事業の考え方の見直しについて提言したい。

 PFI事業発祥の本国である英国では、既にPFI事業による事業発注は行われなくなったが、英国においてPFI事業の導入が行われた時のスローガンと同じように、日本でもPFI事業は、「真に必要な公共施設などの施設等と財政健全化の両立を図るうえで重要な役割を果たすものである」とし、平成25年度から来年の令和4年度までの10年間で、国、地方公共団体において21兆円の事業規模の達成を目指す目標が継続中であると示されている。

 報告書では、PFI事業をサービス購入型と独立採算型という二つで切り分けた解説が行われているが、サービス購入型について誤解がある。

 日本のPFI事業では、事業者に支払う施設整備費と維持管理費を合わせてサービス対価と呼んでいるが、施設整備費は施設の引き渡し段階で確定債務となるものであるから、維持管理費のみがサービス対価である。

 APMG CP3PガイドによるPPP/PFI事業の定義では、「〈1〉公共当事者と民間当事者の長期的な契約であり、〈2〉公共資産(関連する公共サービスの管理を潜在的に含む)を開発(または大がかりのアップグレードや改修工事を含む)または管理を行うためのものであり、〈3〉そこにおいて民間当事者は契約期間にわたって大きなリスクと管理責任を担い、〈4〉自らのリスクで資金調達の主要な部分を提供し、〈5〉報酬はパフォーマンスおよび資産やサービスの需要または利用、もしくはそのいずれかに大きく依存したものであり、〈6〉これによって官民の利害の調整を行うものである」と六つの要素が示されている。

 最も重要な要素は、5番目の報酬はパフォーマンスおよび資産やサービスの需要または利用に依存したものであることであり、公共が民間事業者からサービスを購入することが原則となる。諸外国のPPP/PFI事業においては、「複数年の耐用年数をもつ物品の当該年度分費用」と「役務の当該年度のみの費用」を区別せず、不可分なサービス購入費(当該年度の費用)と捉えており、全てがサービス料金(受け取り後に生じる債務)であるので、パフォーマンスリスク(事業期間にわたる施設の修繕責任)を民間に移転することができるとしている。

 サービス対価とは、施設の機能(アウトプット)をサービスとして購入する契約を締結し、機能が発揮された場合に、事業者が受け取ることができるサービス料金を意味する。

 サービスには、その特徴として〈1〉非有形性(形がないこと)、〈2〉生産と消費の同時性(使われるときに生産されること)、〈3〉サービスの非均質性(提供する者や提供方法により品質が異なり、常に同じ品質で提供し続けることが困難なこと)の三つがある。分かりやすい例で示すと、カーリースで車両を購入する場合の支払いはサービス購入ではない。レンタカーの料金支払いがサービス購入である。カーリースでは契約を締結した時点で車両購入金額に該当する債務が確定する。これに対してレンタカーは、使った分だけ債務が発生するため、大きな確定債務を抱え込む必要がない。つまり、「真に必要な公共施設等の整備等と財政健全化の両立を図るうえで重要な役割を果たすもの」としてPFI事業を活用するのであれば、確定債務とならないサービス購入での契約が必要となる。

 この考え方は、モノを購入することから、モノの機能を購入するという世界的な潮流であり公共調達のパラダイムシフトである。このように施設の機能を購入する仕組みを導入することで、モニタリング結果を支払いに連動させることが可能となり、パフォーマンスリスクを民間事業者に移転して、施設の整備と財政健全化の両立につながるのである。

 〈クラウンエイジェンツ・ジャパン シニア・アドバイザー〉
 
記事ID:3202106011602